睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome略してSAS)とは睡眠中に生じる呼吸障害で、1時間に10秒間の呼吸停止が5回以上認められる場合に診断されます。日本国内では、中等症以上の睡眠時無呼吸症候群の患者が900万人も存在すると推測されていますが、正確な診断と治療を受けている患者が少ないことが問題視されています。当院では国内でも数少ない循環器学会および睡眠学会の両方の専門医資格を持った医師による診療を行います。睡眠時の無呼吸やいびきを指摘をされたことがある方、日中の眠気を強く感じる経験がある方、職業ドライバーの方、過去に居眠り運転による事故歴のある方、体重増加があり、高血圧症の合併がある方は、まずは一度外来にて簡易型睡眠モニターでの検査を受けることをおすすめいたします。
睡眠1時間あたりに認める無呼吸・低呼吸の回数をAHI(無呼吸低呼吸指数)といいます。SASの診断ではAHIのみではなく睡眠の質の評価も重要になり、「いびき、夜間頻尿、日中の眠気や起床時の頭痛などの症状を認め、かつAHIが5以上」の時にSASと診断します。
重症度はAHI 5~15:軽症、15~30:中等症、30以上:重症となります。
SASを発症すると、様々な循環器疾患や脳血管障害を合併することが明らかとなっています。そのリスクは、高血圧症では2倍、虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症)では2〜3倍、脳血管障害は3〜5倍であると報告されています。また心房細動の患者ではSASの頻度が高く、AHI(無呼吸低呼吸指数)が30以上になると心房細動の頻度が4倍に増えるとの報告があります。
夜間睡眠中の無呼吸に伴う低酸素血症や覚醒反応(無呼吸のたびに苦しくて、脳が目覚めてしまう現象)により交感神経活性の亢進が生じることです。睡眠時無呼吸症候群ではない高血圧の患者は、夜間に交感神経は安定しているため、比較的夜間の血圧は安定しています。しかし睡眠時無呼吸症候群の患者は無呼吸を繰り返すことにより夜間も交感神経活性が亢進しているため、睡眠中も血圧が高い人が多く、その状態が日中まで引きずられ、1日中血圧が高い状態に陥っている人もいます。そのような状態ですから血圧が高いだけでなく心臓にも強い負荷がかかり、循環器疾患や脳血管障害も引き起こす可能性があります。一方で、上気道の閉塞により胸腔内圧の低下(喉が塞がるために、喘いだ状態になり、胸腔内が陰圧になる)が発生し、これにより心臓に戻ってくる静脈の血流が増加することが心不全悪化の要因とされます。また近年睡眠時無呼吸症候群は急性大動脈解離の発症の要因の1つとして考えられるようになっており、無呼吸時の胸腔内の陰圧により大動脈が外に引っ張られる、一方で大動脈の内腔では無呼吸と呼吸再開のたびに血圧が上がったり下がったりするので、血管自体が脆弱になり、結果として大動脈に裂け目が入る大動脈解離の原因になる可能性があると考えられています。
原因には鼻から喉頭(のどぼとけ)にかけての狭窄があります。肥満による首や喉まわりの脂肪沈着のほか、あごが十分発育していない小顎症(しょうがくしょう)、扁桃肥大、舌根(ぜっこん)・口蓋垂(こうがいすい)・軟口蓋(なんこうがい)による狭窄などがあります。また、加齢や睡眠時における呼吸の調節能力の低下など、機能的な要因も関連します。睡眠時無呼吸症候群は、男性は30〜60代によくみられ、女性は更年期以降に多く、閉経によるホルモンバランスの変化も一因とされています。
まずは、ご自宅でできる簡易検査で睡眠中の呼吸、いびき、酸素飽和度などの測定をします。簡易検査で最重症(AHI40以上)と診断された方はCPAP治療の適応となります。軽症〜中等症の方は、さらに精密検査としてPSG検査(ポリソムノグラフィー)を行う必要があります。
簡易検査で軽症〜中等症のSASと診断された方は確定診断のためにPSG検査を行う必要があります。在宅Full PSG検査は脳波や眼球運動、呼吸、いびき、酸素飽和度、オトガイ筋電図などを測定し、睡眠専門の検査技師が解析を行います。今までは入院で行われていた内容に匹敵する検査が在宅でもできるようになりました。
症状や重症度に応じて、CPAP療法、手術、マウスピース、減量、就寝時の体位などによる治療を行います。
CPAP療法は中等度から重症度に有効な治療法です。睡眠中に鼻に装着したマスクから空気を送り込み、気道を開存させて治療します。睡眠中の無呼吸・いびきが減少し、眠気の改善や血圧を下げる効果も期待できます。
マウスピース療法は軽症に適した治療法です。睡眠時にマウスピースを装着し、下あごを前方に出すように固定することで、上気道を広く保ち、無呼吸やいびきの発生を防ぎます。⻭科クリニックで無呼吸用のマウスピース作成が必要となります。
睡眠呼吸障害に対して行われる耳鼻科の手術もあります。SASに対する手術には2つ目的があり、1つは手術のみでSASの完治を目指す場合であり、もう1つは集学的治療の一環として行う手術です。手術を行う際にはSASの原因となる上気道形態の評価が重要となります。
厚生労働省に承認された新しい治療法で、舌下神経を刺激する装置を体内に植え込む手術です。CPAPを使用することが難しい、CPAPから安定した効果を得ることが難しい方で、過度の肥満がない方が対象となります。現在、国内での実施施設も限られておりますので、希望すれば誰でもできる治療ではありません。